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主任ご挨拶

 久山町研究は、1961年に福岡県久山町の地域住民を対象とした脳卒中の実態調査として始まった疫学研究です。この研究が始まったきっかけは、1950年代の脳卒中死亡率を世界各国で比較した米国の疫学者GoldbergとKurlandが、日本の脳卒中(とくに脳出血)死亡率が他の国に比べて群を抜いて高いことに注目し、日本人に脳卒中死が多いのは死亡統計の基となる死亡診断書を記載する際の日本人医師の診断習慣に題がある可能性を指摘したことにあります。当時、九州大学医学部第二内科(現病態機能内科学)を主宰していた勝木司馬之助教授はこの疑問を明らかにするために、特定の地域住民を対象に、その集団内における脳卒中死亡率を正確にとらえ、脳卒中病型別の頻度を把握すべくこの研究を立案しました。そのため、死因調査の正確性を期すために死亡者を全例剖検すること研究の命題とされました。その後、この研究は1971年から尾前照雄教授、1984年から藤島正敏教授、2001年から飯田三雄教授、そして2011年4月から現在の北園孝成教授へと5代の教授にわたり継承されてきました。この間、研究室の主任研究者も廣田安夫先生、竹下司恭先生、上田一雄先生、清原裕先生の4人の先生方から、2016年に現在の私に受け継がれました。

 久山町研究は、研究開始時より、基礎部門である九州大学大学院病理病態学(旧第一病理)と形態機能病理学(旧第二病理)の全面的な支援を得て行われてきました。その後、臨床部門では精神科神経科、心療内科、呼吸器科、眼科、予防歯科、循環器内科に、基礎部門では脳神経病理、九州大学生体防御医学研究所脳機能制御学に参加して頂くようになりました。その結果、研究課題は多方面に広がり生活習慣病全体に及ぶようになるとともに、研究の奥行きも深まってきました。また、2002年にゲノム疫学研究が始まったことを契機に、東京大学医科学研究所や理化学研究所など他大学・研究施設や民間企業との共同研究も始まっています。また、2015年には国家的プロジェクトである「健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究」にも参加し、中核的な役割を担っています。

 久山町研究は、久山町住民の皆さまや医療の第一線を支えておられる地元の開業医の先生方との信頼関係の上に成り立っています。この信頼関係を大切に守り育てながら久山町住民の皆さまの健康づくりを支援するとともに、蓄積され続けている膨大なデータを論文として情報発信し、人々の生活習慣病の予防に貢献していきたいと考えています。

九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野
教授 二宮利治

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