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慢性腎臓病

慢性腎臓病 (Chronic kidney disease)

 現在、世界的規模で腎不全患者が急増しており、慢性腎臓病 (Chronic kidney disease: CKD)の早期発見とその管理の重要性が広く認識されつつある。久山町の成績からCKDの時代的推移を検討すると、CKD病期3〜5(GFR <60mL/分/1.73m2)の頻度は、久山町第2集団(1974年)から第4集団(2002年)にかけて男女とも有意に増加していた。さらに、第3集団(1988年)を前向きに追跡した成績より、代謝性疾患が集積した病態であるメタボリックシンドロームがCKD発症の有意な危険因子であることを明らかにした。このことは、代謝性疾患がCKD発症と密接に関連することを物語っている。わが国では、生活様式の欧米化に伴って肥満、糖代謝異常、脂質代謝異常といった代謝性疾患が急増しており、それがCKD頻度の上昇の大きな要因であることがうかがえる。また、久山町剖検例の成績を用いて組織学的に判定した腎病変(糸球体硬化、細動脈硝子変性、動脈硬化)とその危険因子の関連を検討すると、糖代謝異常や血清総コレステロール高値といった代謝性疾患は腎組織病変の独立した危険因子であり、疫学調査の成績を支持する結果であった。

 近年、CKDの新たな危険因子として、ビタミンD不足や脂肪組織から分泌されるアディポカインの上昇が注目されている。久山町の第4集団の追跡研究では、活性型ビタミンDである1,25(OH)2Dの低下はCKD発症の有意な危険因子であった。また、第3集団の追跡調査では、動脈硬化性疾患の危険因子である高ホモシステイン血症がCKD発症に関与していることが明らかとなった。さらに断面研究の成績より、アディポカインの一種である血清レジスチンや血清アンジオポエチン様タンパク質2(Angiopoietin-like protein 2:Angptl2)の上昇がCKD発症に影響している可能性が示された。

 CKDは腎不全だけでなく、心血管病の危険因子であることが主に欧米の疫学研究から報告されている。我々は第3集団の追跡研究の成績より、CKDは男性では虚血性心疾患の、女性では脳梗塞の有意な危険因子であることを明らかにし、地域住民においてCKDは心血管病のリスクを有意に増大させることをわが国ではじめて報告した。さらに、久山町剖検例の冠状動脈の病理学的検討により、腎機能の低下に伴い冠状動脈の狭窄が有意に進行することを確認した。また、第4集団の断面調査では、CKDの早期診断に有用なアルブミン尿と末梢動脈疾患との間に密接な関連が存在していた。

 CKDに関する疫学的エビデンスをさらに蓄積し、CKDのみならず心血管病の予防につなぐことが期待される。

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