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糖尿病

糖尿病 (Diabetes)

 近年わが国では、急速な人口の高齢化と生活習慣の欧米化によって糖尿病患者が増加し、大きな医療・社会問題となっている。本研究では、わが国の地域住民における糖尿病の有病率、糖尿病診断基準の検証、糖尿病の発症要因およびその合併症について検討している。

 久山町で1961年、1974年、1983年、1993年、2002年に行われた循環器健診を受診した40歳以上の住民の成績を用いて、代謝性疾患の有病率の時代的推移を比較・検討した。その結果、肥満、高コレステロール血症および糖代謝異常の有病率は時代とともに大幅に上昇し、2002年には肥満の頻度は男性29%、女性24%、高コレステロール血症の頻度はそれぞれ22%、35%、糖代謝異常の頻度はそれぞれ54%、35%に達していた。1988年と2002年の健診では、40〜79歳の住民を対象に75g経口糖負荷試験を用いて耐糖能レベルを正確に判定している。その結果、糖尿病の頻度(1998年のWHO基準)は1988年の男性15.3%、女性10.1%から2002年にはそれぞれ24.0%、13.4%に増加していることが明らかとなった。

 糖尿病診断基準の検証に関する研究では、糖尿病網膜症の有病率調査の成績を用いて、糖尿病を診断するうえでの血糖関連指標の最適なカットオフ値を求めると、空腹時血糖値(FPG)では117mg/dl、負荷後2時間血糖値(2hPG)では207mg/dl、HbA1c(NGSP)では6.1%、グリコアルブミンでは17.0%、1,5-アンヒドログルシトールでは12.1μg/mlであったことを報告した。さらに、2hPG 200mg/dlに対応するFPGを検討した結果、1988年の集団では112mg/dl、2002年の集団では113mg/dlであった。すなわち、日本人では糖尿病網膜症は2hPGでは200mg/dlあたりから出現し、従来の基準とほぼ一致するが、糖尿病診断におけるFPGとHbA1cの基準値は現在の診断基準値より低いレベルにあることがうかがえる。また、糖尿病発症に対するFPGおよび2hPGのカットオフ値を検討すると、FPGのカットオフ値は101mg/dlで、米国糖尿病協会のimpaired fasting glucoseの診断基準と一致していたが、2hPGのカットオフ値はimpaired glucose toleranceの基準値である140mg/dlより低いレベルにあることを見いだした。

 糖尿病の発症要因に関する研究では、メタボリックシンドローム(MetS)が糖尿病発症の有力な危険因子であることやマグネシウム摂取量の増加は糖尿病発症のリスクを有意に低下させることを明らかにした。糖尿病発症に関連するバイオマーカーについては、全身の炎症を反映する高感度C反応性蛋白(CRP)、脂肪組織における慢性炎症と関連する血清アンジオポエチン様タンパク質2(Angptl2)、脂肪肝の指標であるalanine aminotransferase(ALT)、酸化ストレスと関連する血清γ-glutamyltransferase(γ-GTP)が糖尿病発症と密接に関連することを報告した。また糖尿病に関するゲノム研究において、KCNJ11のE23K遺伝子多型が糖尿病の原因遺伝子の一つであることを明らかにした。

 糖尿病とその合併症に関する研究では、糖尿病は脳梗塞および虚血性心疾患の有意な危険因子で、とくに糖尿病にMetSが合併すると、心血管病の発症リスクが相乗的に上昇することを示した。また、慢性高血糖の指標であるHbA1cレベルの上昇は脳梗塞および虚血性心疾患発症の有用な予測因子であり、既知の心血管病危険因子にHbA1cを加えることで心血管病発症の予測能が有意に改善することを報告した。さらに、糖代謝異常は悪性腫瘍死、胃癌や認知症(血管性認知症およびアルツハイマー病)発症の危険因子でもあることを明らかにした。このように、増加している糖尿病・糖代謝異常は動脈硬化性疾患のみならず種々の疾病と関連することから、糖尿病の発症要因を解明し予防することはわが国の公衆衛生学上の大きな課題となっている。

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