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ゲノム疫学

ゲノム疫学(Genomic epidemiology)

 生活習慣病は、多数の環境要因と遺伝要因が複雑に組み合わさることにより発症すると考えられている。したがって、生活習慣病発症のリスクを的確に予測し、その予防法・治療法を開発するには、環境要因と遺伝要因の双方について十分な理解が必要である。

 当研究室における遺伝子解析は、1995年にACE(アンジオテンシン変換酵素)遺伝子の挿入欠失多型を検討したことに始まる。その後、2002年に文部科学省のリーディングプロジェクトの指定を受けて、生活習慣病の本格的なゲノム疫学研究が始まった。この年にゲノム疫学の基盤を作るために詳細な住民健診を実施。40歳以上の住民3,328名が受診し、第4集団と呼ばれるコホートを設定した(受診率78%)。このうち3,196名の住民からゲノム疫学研究への参加同意を頂いている(同意率96%)。

1.ゲノムワイド関連研究 (genome-wide association study, GWAS)

 このプロジェクトは、九州大学の各教室(病態機能内科学、病理病態学、生体防御医学研究所脳機能制御学)、国内の研究機関(東京大学医科学研究所、理化学研究所、民間企業など)と共同で、脳梗塞関連遺伝子のゲノムワイド関連研究(GWAS)を実施することからスタートした。九州大学病院および関連施設から収集した1,112例の脳梗塞患者と、性・年齢を対応させた同数の久山町健常者を対象としたGWASにより、これまでに3つの新規脳梗塞関連遺伝子(PRKCH、AGTRL1、ARHGEF10)を報告した。

 さらに、これらの遺伝子・SNPの機能について病理学的手法、分子生物学的手法、モデル動物などを用いた機能解析を実施した。例えば、久山町住民の剖検組織を用いた免疫組織染色によると、PRKCHの遺伝子産物であるプロテインキナーゼCエータ(PKCη)は冠状動脈の動脈硬化病変に発現し、病変の程度とPKCη発現量との間に正の相関を認めた。また、AGTRL1遺伝子ではプロモーター部位に転写因子Sp1が結合することにより転写が誘導され、その転写活性はSNPの型により異なることが示された。

 また、1988年に健診を受診した久山町第3集団を2002年まで14年間追跡したコホート研究によると、各遺伝子のSNPは脳梗塞の発症リスクと有意に関連することが判明した。

 脳梗塞関連遺伝子研究の成功を受け、他の生活習慣病についてもGWASによる遺伝子探索を順次実施している。2009年には九州大学病院消化管内科と共同で潰瘍性大腸炎の、2011年には九州大学眼科と共同で加齢黄斑変性症の新規関連遺伝子を報告した。

2.候補遺伝子アプローチ(candidate-gene approach)による研究

 糖尿病など代謝性疾患を中心に、近年多数の候補遺伝子・SNPが報告されているが、多くは欧米諸国での研究であるため人種の異なる日本人における検証が必要と考えられる。そこで当研究室では、これら既報のSNPが日本人の一般住民においても疾患と関連するか否かの検証を試みている(候補遺伝子アプローチ)。例えば、インスリン分泌に重要な役割を有するKir6.2遺伝子のE23K多型と糖尿病の関連が白人を対象とした研究により報告されているが、我々は久山町第3集団を用いて、この多型が糖尿病の発症リスクと有意に関連することを確認している。

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